モブたちのラプソディ
「諸君、よく来てくれた」
「ミレモブ、ついにできたのか?」
「長く待たせてくれましたわね」
「無論だ。これを見てくれ」
「おお! このお姿は間違いなくホシノ様だ!」
「ついに我々アビドスの王様が帰還なされるのですね」
「ああ、ホシノ様が私たちの罪を背負って砂漠で果て、幹部であったヒナ様やハナコ様も後に続いた。残された私たちがどれほど嘆いたことか」
「あのときは絶望しかなかったな。でも今こうしてホシノ様はここにいる。たしかクローンだったか?」
「ゲヘモブ、君の言う通りだ。アポピスとの最終決戦で断髪された髪から回収した遺伝子を使った。トリモブが資金援助をしてくれなければ、この研究は完成しなかっただろう」
「ホシノ様を取り戻すためならば、あの程度の資金などはした金ですわ」
「でもよミレモブ、ホシノ様はどうして目が覚めないんだ?」
「それはまだこのホシノ様に中身がないからだ。今のままではただの肉人形だな」
「おいおい、それじゃ何の意味もないぞ。私たちはホシノ様に戻ってきて欲しいんであって、お人形遊びがしたいわけじゃないんだぜ」
「君のいう事はご尤もだ。だが安心して欲しい。それについても考えはある」
「聞かせていただきましょうか」
「ホシノ様が目覚めないのは中身がないから、では単純だ。中身を注げばいい。ホシノ様が生前親しかった人物を集め、彼女たちからホシノ様の記憶を抽出して空洞を満たすのさ。クローン体作成と並行して記憶の抽出技術は確立してある」
「なるほど、でもそんなに上手く行くものでしょうか? 記憶と言ってもそれは彼女たちの物、ホシノ様本人ではないのですよ?」
「遺伝子の塩基配列を知っているかね? アデニン、チミン、グアニン、シトシンの4つだ。そしてアデニンとチミン、グアニンとシトシンの組み合わせで必ず結合し、二重らせん構造を構築する。相補的な役割を担うから片方のコードを見ればもう片方の塩基配列も予想できるのだ」
「つまり……どういうことだってばよ?」
「他人の記憶であってもそれを呼び水として、ホシノ様自身の体が記憶を構築してくれる、という事だ。これで記憶を得たホシノ様は無事目覚め、私たちを救ってくださる」
「でも記憶を集めるって言っても、誰から集めるんだ? ホシノ様に会いたい人はたくさんいるが、アビドスが無くなった以上、キヴォトス中に散らばってしまっているぜ。どうやって集めればいい?」
「そこに関してはトリモブが担当だ」
「アリモブたちの手を借りて、キヴォトス全域に噂を流しました。『小鳥遊ホシノ』の遺体は聖遺物となっており願いを叶える力がある、と。この話を聞いてしまえば、真偽がどうであれ気にならない者はいません。自ら足を運んでくれるでしょう」
「まじかよ、見かけないと思ったらそんな働いてたのかアリモブ」
「潜入、諜報、煽動はお手の物ですからね。頼りになりました。杏山カズサ、月雪ミヤコ、砂狼シロコなど対象となる人物も選定してあります」
「そうして集まった者たちから記憶をいただく。抵抗するなら君の出番だ、ゲヘモブ」
「よっしゃ任せろ! 荒事は得意だ」
「ホシノ様の目が覚めれば、ハナコ様、ヒナ様も順次戻ってきてくださる。あのお二人はホシノ様ととても親しかったからな。ホシノ様が呼びかければ、応じることは想像に容易い。ヒナ様は万魔殿のバカが融通を聞かせてくれたから素材はそろっているものの、ハナコ様はトリニティで痕跡をほとんど残されていなかったからな、ホシノ様が頼りだ」
「ホシノ様は私たちをまとめ上げてくれました。トリニティが資金援助、ミレニアムが研究開発、アリウスが潜入工作、ゲヘナが実行部隊。こんなにかつての学園の垣根を越えて協力し合えたのは、ホシノ様がいてくださったからですわ」
「ああ、私たちは姉妹になれた。ホシノ様こそ真のエデン条約だ」
「……でもゲヘモブ、私たちの計画には、重大な穴がある」
「それはなんだ、ミレモブ」
「アリスだ。かつてのアビドスの栄光を阻んだ勇者。彼女がいることで、すべて台無しになる可能性がある」
「なんだ、そんなことか。大丈夫だ、問題ない」
「? 何故そう言い切れる?」
「なぜなら私は女神ホシノ様を信じている! 私たちは選ばれし神の子、アビドスの民だ!」
「「うおおおおおおっ!」」
「「「聖骸戦争の始まりだーっ!!!」」」
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「……ナニコレ?」
「今朝郵便受けに入っていたわ。差出人はワイルドハントの生徒のようね」
「ヒナちゃん、こういうの書くような子、覚えてる?」
「あの時は人が増えすぎて、後半は誰が居たかなんて覚えていない」
「この中で出てくる子たちは見覚えあるんだけど」
「全員実在する。快く協力してくれた、と後書きに記載されてるね」
「…………はぁぁぁぁ」
「素直に感想言って良いわよ」
「キッッッショ! え、何これキッッッッッッッッショ!!!」
「ホシノが罪を背負って砂になっているのに最終決戦で断髪した髪が残ってたり、所々矛盾がある。詰めが甘い」
「何でおじさん死んでるの!? いや死んでるのは別に良いんだけど」
「よくない」
「……それは横に置いといて、ヒナちゃんやハナコちゃんまで死んでるのは許せないよ~」
「諦めなさい。私たちは名が売れ過ぎた。これから一生フリー素材よ」
「それでおじさんにハナコちゃんとヒナちゃん産ませようとするとか、ライン超え過ぎ。ハナコちゃんが見たら泣いちゃうよ。あ、そうだ、ハナコちゃんは?」
「今日は午後からだったはず。この件はまだ知らないと思うわ」
「はぁ……ヒナ」
「!」
「ハナコの耳に入る前に潰す。手伝いなさい」
「ええ、ええ! いくらでも使ってちょうだい」
「初めてですよ、ここまで私をコケにしたおバカさん達は」
「……だ、そうですよ。ずいぶんとまあ過保護なことで」
「……ちょ、待ってくださいミヤコさん」
「ハナコさん、愛されているご感想は?」
「嬉しいですけど恥ずかしくて何も言えないです」